地域と協同し、海外に漕ぎ出すビジネスの強み
昭和17年の創業以来、「まるずわいがに」を主力商品とした水産食品事業や海外での漁業事業を展開しながら、市内のエネルギー供給など地域に根ざした事業にも力を入れてきた株式会社カネダイ。気仙沼から世界へ、グローカルなビジネスを進める姿勢と社員の働きがいについて、後藤雅彦取締役と人事担当の佐藤里穂さんに伺った。
グローバルビジネスと地域貢献の強み
株式会社カネダイは、水産食品、漁業、廻来船、総合エネルギーの4事業を展開している総合企業。その歴史は、海鮮問屋業からはじまっており、会社のエントランスには、大きな漁船の模型が飾られている。創業当初から海外に目を向けるなかで見つけたのは、アフリカ沖で獲れるまるずわいがに。当時はまだ日本で供給されていなかったが、その食味の良さから今も主力事業の一つになっている。

海外事業を手掛けている強みは、東日本大震災の時にも生かされ、一早く事業を再開することができた。その要因について、後藤取締役は「中国に加工場があったこと」と答える。
「市内の加工場は全壊してしまったのですが、中国の工場で製造したものを日本に持ってくることができ、震災後もすぐに販売が続けられました。今の会長が当時漁協組合長だったこともあり、『とにかくすぐに船を誘致して再開するぞ』と、旗頭となって関係各社に協力を仰ぎ、一早く再開しました。中国でカニの加工を始めた1990年から早くも20年以上が経ちましたが、引き続き良い関係性を構築できていることは大きな強みだと思います。」

震災当時はまた、当社の主力事業の一つであるエネルギー事業が、地域のインフラ復旧に大きく貢献した。
「震災時、市内の業者さんはどこも被害に遭われていて、弊社もガスの充填所が全壊してしまったんですが、地域全体でインフラを整備していこうという気運は高かったと思います
し、様々な支援のお陰で早めに復旧できました。現在は世界情勢により燃料の高騰が著しいですが、為替や石油価格は自社でどうにかできるものではありませんので、納入先の皆さんと価格交渉しながら搬入しています。」
地域貢献という点で、株式会社カネダイは2021年から気仙沼市のふるさと納税の返礼品として商品の提供を開始していて、寄付金額も順調に増えているという。震災後はB to C事業で通信販売を強化すると共に、海外事業をさらに強化。グローカルという表現もある通り、気仙沼から世界に向けての販売を強化すべく、販路の拡大を進めている。
「ジェンダー」ではなく
「個人の力」が尊重される職場
株式会社カネダイでは、若手社員が活躍している。学生時代にデザインの勉強をしていた社員が自社商品のパッケージデザインを手掛けたり、英語でのコミュニケーションに興味のある社員が海外との商談を担当したりと、それぞれの興味関心が業務に大いに生かされている様子だ。
「現在自社商品のパッケージデザインを担当する社員については、採用面接の時からデザインに興味があることを聞いていました。元々商品のパッケージデザインは外注しており、社員が手がけるという前例はなかったのですが、現状外注していることを社内で出来るようになるというのは、今後強みになり得るところだったので、社内で協議をしながら進め、実際に商品としてリリースできた経緯があります。英語に関しては社員全員が話せるわけではありませんが、得意な社員も何名かいて、彼らが海外との取引など、英語を使う業務を担当しています。」と佐藤さんは言う。

株式会社カネダイの社員全体で見る男女比は1:1で、そのうち、管理職の男女比は20:3、依然として男性の割合が高いのが現状だ。管理職に関するジェンダーギャップの実情を後藤取締役に尋ねた。
「男性の私からすると、女性だから管理職になれないという感覚はないですね。その人の能力次第ですし、実際に5年前に私の部署で女性が課長になり、その後に続く形で2名の女性が管理職に就きました。一方で、管理職に就くことはできるけれど就きたくないという女性もいます。そういった方々に『女性は管理職として活躍できるんだよ』と伝えていくのは会社の役割の一つですし、今は成長過程でまだ少ないですが、今後は女性の幹部が増えていくイメージでいますね。」
採用担当の佐藤さんは「こういう人を採用したいという明確な人物像があるので、その人のジェンダーは特に意識していません。」と答える。
「営業職と一言で言っても、デザイン業務を担当している者がいたり、幅広い仕事ができますし、小さいことから大きなことまで様々なチャレンジが生まれている社風があります。だからこそ、自ら行動できる主体性のある人を積極的に採用したいので、特にその点を見ています。」

はつらつと答えてくれる佐藤さん自身は入社3年目。新社会人と近い年齢だからこその立場が、採用活動のプラスになっているようだ。
「やりたいことや、悩んでいることについて言いやすい環境を作っていくのは大事だと思うので、その点で歳が近い人が採用担当だと新入社員の子たちが話しやすいのではと思いますし、相談窓口のような役割ができるといいなと思っています。
最近では、仙台の大学から面接に来てくれる方も増えていて、実際にここ数年の新入社員は、市外や県外の人がほとんど。それでも、物理的な距離は課題だと思っているので、今後は各大学との連携を強化し、学生一人ひとりとの関係性をもっと良く、濃くすることが大切だと考えています。」
インターンシップ制度の意外な効果
しかし、数回の面接だけでは人となりが分からないことも多い。そこで、2022年から導入したのがインターンシップ制度だ。年2回、担当社員と学生が様々な企画を発案し、一カ月間プロジェクトに取り組む。実際は、インターンシップ制度が採用に直結するとは限らないというが、それでも学生を受け入れるのには理由がある。
「つまるところ、社員教育になるからです。社員が新たなプロジェクトを担当することで普段の仕事を見つめ直す良い機会にもなるし、普段は部下がいない人もインターン生を受け入れることで部下の教育という視点が養われます。こちらもインターン生と年齢が離れれば離れるほど可愛くなってしまうのもあるんですが(笑)、そこは受け入れる側としてしっかり指導していかなければなりません。」と後藤取締役。
今後は、インターンシップ生を受け入れているという感覚を会社全体として醸成していくのが課題だという。この制度によって直接利益が生まれるものではないが、社員の意識を変えたり、学生への企業周知に効果的だといえるだろう。

最後に、ウェルビーイングの点において、後藤取締役の考えを伺った。
「震災以降、外から色々な方が市内を行き来していて、市外の方々とも協力しながら商売ができる状況になったなと思います。昔から外国との付き合いがある地域なので、皆さん寛容で、チャレンジする雰囲気は強い。水産業に限ったことではなく、いろんな業種で起業のチャレンジができる土壌があると思います。気仙沼は、地域の人とのコミュニケーションを作りつつ、グローバルな起業をしたい人には向いているところだと思います。」
地域でも、海外でも、人との関係性を大切に築いてきた株式会社カネダイ。これからも、様々な荒波に立ち向かいながら、時代の波に乗った価値を生み出していくことだろう。
- 業種
- 水産食品事業、漁業事業、廻来船事業、総合エネルギー事業
- 従業員数
- 130名
- 住所
- 気仙沼市川口町一丁目100番地
- ホームページ
- https://www.kanedai-kesennuma.co.jp/